放射線生物学
身近な放射線~なぜ生物に影響を与えるのか,説明できますか?~

筑波大学 松本 孔貴

放射線の発見から120 年が経過し,我々の生活に必要不可欠な存在となっています.
体調が悪ければ病院に行き,エックス線等を用いた画像診断により,身体の隅々まで検査することが可能です.
がんなどの病気が見つかれば放射線を用いた治療も受けることができます.
これら病院での放射線業務を担当するのが診療放射線技師(以下,放射線技師)であり,本邦の国家資格のうち“ 放射線” を冠する資格は2つしかなく,放射線技師はその1つです.
その観点から,放射線技師は放射線の「プロフェッショナル」であり,世界放射線技師会が作成した放射線技師の役割には,以下が含まれております.

⃝  電離放射線の医用及び研究用に使用した結果生ずる身体的危険及び遺伝的危険の両方を理解し,質問に応えて適切な用語でこれらを説明できる.
⃝  放射線技師の態度,権威,最新の知識の維持によって,医用目的の放射線の使用管理を助ける.
⃝  現場の専門職として,放射線技師は進歩に合わせて業務を最新化し維持するとともに,患者の利益になる研究成果を適用する義務がある.
⃝  臨床の場で働く放射線技師は放射線技師学生の臨床教育に携わらなければならない.放射線技師の資格,能力,役割により,適切な状況で他のスタッフに助言し,指示し,監督することができる.更に,学生,他の専門職,一般大衆の理論研修への参加を要請されることがある.

本講演では,上述した放射線技師としての責務を全うするために必要な放射線生物学,放射線治療生物学に関する知識として,以下の3 項目に関する知識を共有することを目的とします.
1. 放射線はどのように生物(細胞)に影響を発生させるのか?
2. 放射線によって,我々の身体・組織はどのような障害が発生し得るのか?
3.  どのような放射線治療生物学的差異を持って,最新の放射線治療(陽子線治療,炭素線治療,ホウ素中性子捕捉療法が実施されているのか?
本講演が貴君らのような専門家だけでなく,一般の方々への放射線に関する正しい知識とそれによる放射線に対する正しい恐れ方を伝える一つのきっかけとなれば幸いです.