放射線物理学
数値・断面積データとシミュレーションを通じて学ぶ放射線物理学

群馬県立県民健康科学大学 髙田 健太

放射線を扱うには放射線物理学に関する知識は必須です.放射線の物理的な相互作用が画像を形成する根幹であることはもちろん,さまざまな物理的プロセスが検出器の応答に関与したり,さらには細胞内のDNA 損傷,すなわち生物学的影響にも関連したりするなど,診断・核医学・治療の領域を問わず,臨床業務や研究活動のさまざまな場面で放射線物理の知識が必要となります.
そのため,学部教育において幅広い内容の講義が実施されており,そこで培われた知識が,臨床業務や研究活動においてたびたび直面する課題を紐解く際の一助になっていると思います.
他方,学部時代に学んだ記憶はあっても,部分的に忘れてしまっていたり,また,「なぜそうなるのか」と問われると,明確に答えられなかったりすることを経験するのは私だけではないと思います.
たとえば,私が経験した一例として,陽子線は低LET なのでRBE が低いと学んだ記憶はありましたが,低LET とは具体的にどのくらいなのか,と自問した際に分からなかった経験があります.
さらには,専門的な認定資格試験において,かなり深淵な放射線物理に関する知識定着度を問われることもあり,その時々において苦慮することもあると思います.
放射線物理学という用語がカバーするのはとても広い範囲で,そのすべてを完璧に理解するのは困難だと思います.
しかしながら,各種係数や断面積データを入手して数値解析を行うことで,自分の知りたい範囲の情報だけを的確に抽出することができるようになりますし,さらにはシミュレーション計算を実施することによって,見えない放射線を視覚化できることで理解が早まったことも数多く経験しました.
本講座では,放射線物理の理解を進める際に役立つ数値データやその入手方法,さらにはモンテカルロ計算の実用例を紹介します.
それらを通じて,診断領域から治療領域までの放射線を対象に,光子・中性子の相互作用,粒子線の阻止能やLET,側方電子平衡やコンプトン散乱など,時に分からなくなる小さな「なぜだっけ」について解説いたします.
また,モンテカルロ計算で評価できる物理量は線量だけではなく,特にフラックス(粒子数)を評価することで新たな知見が拡がることもあります.
さらに,「材質の違いによるdose の違い」という考え方も,断面積データと物理的パラメータの調整で,直感的に理解することができます.
これらの紹介を通じて,放射線物理学を少しだけ学び直してみたい方や,モンテカルロ計算を始めてみたいと考えている方にとって,少しでも有益となる情報をご提供したいと思います.