JSRT の倫理規定

埼玉県立小児医療センター 若林 康治

我々のような理系の人間は,人文哲学に属する「倫理学」について,とりわけ敬遠しがちである.
しかし,簡単に考えるならば,小学生の時に習った「道徳」であり「モラル」や「人として守るべき行い」など,それら規範の根拠を考える学問であると思えば,やや身近になるだろうか.
JSRT の倫理規程は,一般的に言われる「生命倫理」「研究倫理」であり,会員が学会で学術活動を行う場合の「決まりごと」である.
決まりごとなので,守らなければいけないのは当然ではあるが,その決まりを定めた根拠について考えを及ぼし理解しておくことは,自身の研究内容がJSRT の決まりごとに合致しているか,妥当であるかを判断するために必要なことといえる.
すなわち,研究者が研究の「規範の根拠」を理解することは,研究内容とともに大切なもの,ということとなる.
倫理規程やガイドライン(倫理規程の適切な取り扱いのためのガイドライン等)は,学会HP に掲載されている.
しかしながら,実際にそれらを読み理解できたうえで研究にとりかかり始める会員は,少ないと思われる.
演題登録時には執拗にチェック項目が課されているが,それでも倫理配慮がなされていない演題は毎回多い.
残念ながら,倫理で不採択になる演題の代表例は,臨床データなどの個人情報を使用しているにも関わらず,倫理審査委員会の承認を得ていない場合である.
研究としては気軽に行えるテーマであるアンケート調査についても,研究協力者(アンケート回答者)の考え方や情報を含む場合が多い.インフォームドコンセントを行い,個人情報に十分留意した対応を行ってほしい.
利益相反(conflict of interest : COI)も同様に,理解がいまだ深まっていないと感じる.
「金品などの利益授与」のみが利益相反にあたると認識されている場合がとても多いが,関連企業所属の共同研究者がいる場合も,演題登録時と発表時に申告が必要となっている.
利益相反とは,第三者から見て研究結果に影響を及ぼすことが懸念される状態であり,疑念を持たれぬよう適切にCOI を申告しておくことが重要である.
「利益相反が生じている研究は問題がある」ということではなく,「利益相反を適切に申告していない研究発表が問題である」ということを理解しておきたい.
二重投稿は,演題登録時に申告があれば許容される二重投稿として扱われ,演題審査の対象となるが,単なる業績の水増しにつながるため積極的にはすすめられない.
既にジャーナルに掲載済の場合は,著作権に関わる場合もある.
あるいは,投稿済レビュー中と同じ内容による演題発表は,後に論文がアクセプトされた場合,その研究は公表済となるためジャーナルの方で二重投稿と扱われる場合もある.
二重投稿には特に慎重さを必要とする.
研究を行う時間や労力は並々ならぬものである.
それゆえ,プログラム委員会における演題審査は,登録演題を可能な限り「採択」とすべく配慮を行っている.
一方で,倫理やコンプライアンスについて,厳しく取り沙汰される今日の世の中となっている.
本講演が,日々の忙しい業務下にもかかわらず,積極的に取り組まれている皆様の研究が不採択にならないように,倫理に関する認識を深めてもらえる機会となれれば幸いである.