CO V ID - 19感染症の病態と治療法開発への展望
―多臓器障害と微小循環異常の観点からの考察―

茨城県立医療大学 医科学センター 山口 直人

COVID-19 が猛威を振るっている.8月下旬現在,第7 波はとどまるところを知らず,世界共通の脅威となっている.
高感染性,低死亡率に基づく経済と感染対策の両立の政府方針は,易変異性のRNA ウイルスには好都合の流行環境である.急性期の多臓器障害や後遺症の病理病態の解明の道も遠い.
COVID-19 診療にも若干かかわってきた内科医,実験病理学研究医として,個人的な研究成果を含めて考察を試みたい.
ウイルス等の感染症でも外傷でも組織障害が起これば急性期炎症像や回復期像には臓器毎の特異性と共通性がある.
重症例の肺病変としては,1)スパイク蛋白と肺上皮細胞上ACE2 との結合に始まる肺胞性および間質性肺炎,2)肺胞壁毛細血管内皮細胞上ACE2 との結合からの間質性肺炎と肺毛細血管血栓症・微小循環異常,3)サイトカインストームによる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等の重複が報告されている.
急性期からの回復後,間質性肺炎は肺線維化を残す可能性があり,広範な肺微小循環系障害持続と相まって慢性呼吸不全や慢性疲労の一因となる可能性が懸念される. 感染早期からの抗ウイルス治療と抗炎症治療の併用が必須と考えられる.
心臓病変としては,心不全,心筋炎や心膜炎,たこつぼ心筋症等が報告されている.病態としては,1)心臓組織内皮細胞および心筋細胞に発現しているACE2 を介する直接的な心筋障害・心筋炎,2)組織内低酸素血症,3)組織微小循環障害,4)サイトカインストーム,全身性炎症症候群等と考えられている.我我のリポ多糖(LPS)誘発敗血症ラットモデル解析では,心臓組織内のエンドセリン(ET)と同受容体の発現亢進を認めた.
ET は心組織内において血管収縮と血管周辺浮腫による微小循環障害と低酸素状態をもたらすこと,およびβ1遮断薬によりいずれも緩和することが示され,コロナ関連心臓障害の上記2)3)の両病態を緩和する可能性が示唆された.
高血圧症などの交感神経系亢進状態の持続や,糖尿病環境に伴う心肥大や微小循環障害等が,病前からの心臓予備機能低下をもたらし,臓器と生命の予後不良因子となっている.
組織所見を推測する非観血的診断法としてMRIが注目されている.急性期の浮腫や慢性期の線維化など,従来では生検以外には診断し得なかった領域への臨床応用が期待される.
敗血症では腎障害も高頻度であり,動物モデルでは腎臓特異的な疾患指標が,β1遮断薬にて改善した.
腎障害や高血糖値などは脳血流低下因子とも考えられ,高次脳機能障害との関連性も懸念される(根本,山口ら 核医学2012).
現在,ワクチンによる予防と抗ウイルス薬治療,抗体療法等が臨床的な効果を上げ始めている.
その分子生物学的機序や将来展望等,研究室での基礎研究成果を含めて考察してみたい.